学生の皆さんへ

メッセージ

 大阪大学外国語学部英語専攻を選ばれたとき、みなさんは大学と専攻だけでなく、そこで遭遇するさまざまなチャンス、人々との出会いも選択されました。そうしなかったら、会えなかった友人、教員、持たなかったかもしれない興味・関心は、みなさんの人生の一部となり、これから歩む未来になんらかの影響を及ぼすでしょう。こうした出会いは偶然ではなく、みなさん自身が選択する生き方から生まれてくるものです。同じ時間、同じ場所を共有し、勉学・活動を共にする。その選択をした者同志の出会いの輪の中で、みなさんと共に時を過ごせることを、私自身とても幸せに感じています。
 昔からずっと思ってきたことがあります。それは、大半の人には生まれ持った独自の才能、「天賦の才」というような潜在能力があるということ、しかしまた自分本来の能力や適正を見極めるには、それ相応の努力、自分を磨いて開発する「私探しの努力」が必要だということです。自分が最も楽しめること、自分に最も向いていることを仕事や生きがいとして生きていければどれほど幸せでしょう。
 大学4年間(あるいはそれ以上)で、目いっぱい、いい勉強をして、生まれ持った能力、適正をもっとも活かせる将来の道を探してください。そして、みなさんが専攻として選ばれた英語の力をできる限り養ってください。どの道を歩もうと卓越した英語力は大きなツールになり、喜びになります。本気で「自分らしい人生」を拓いていく力を身につけようとしてくださいね。幸運は努力に応じて訪れてくると思います。 

自己紹介とゼミ紹介

 アメリカという国で、演劇は文化・社会・歴史・政治、そして人々とどう関わり、何を目指し、どこへ向かうのか。こうした問いを考えながら、アメリカを映しだす一つの有効なメディアとしてアメリカ演劇を研究するアメリカ演劇研究、いわばアメリカ演劇によるアメリカ文化研究が私の専門です。
 この考えに基づいて行っているのが、3、4年生の私のゼミ、「英語文学演習(a)IIa/b」です。アメリカという国家と社会、人々の現代に至る軌跡、今の姿が、どう舞台で描かれ、どう観客に、社会に、あるいは政治に影響を及ぼしていくのか。「アメリカ」がアメリカ演劇を通して浮かび上がる、そんなアメリカ演劇文化論をともに作り上げていくゼミです。
 演劇作品の読み・研究・発表・議論のプロセスで、みなさんはさまざまなアメリカの断面、問題点、多様な人種、ジェンダー、セクシュアリティを持つ人々の生を目にしていきます。そこには政治的・社会的・文化的な力の介在と衝突、中心と周縁、支配と被支配、夢と現実など、多くの問題が交錯する状況下で生きる人々の姿が展開しています。その意味、メッセージを考えることで、これまで知ることのなかったアメリカの姿が見えてきます。と同時に、みなさん自身が考察と研究をしていくなかで、自分自身の考え方、物事の捉え方、感じ方を見つめなおし、修正し、そして更新し続けていきます。その作業がみなさん自身の成長の糧にもなっていくと思います。
 本気で、ものを見(観)て、読んで、調べて、考えて、発信して、話し合って、何かを創造する。そんなことが好きな人、そんなことをしてみようと思う人。アメリカを相手に、アメリカ演劇を舞台/メディアに、勉強してみませんか。貴志ゼミに来てくれるのを待っています。(1、2年生のみなさんも、ゼミ見学を歓迎します。)

私が紹介する10冊

  • Ashcroft, Bill, Gareth Griffiths, and Helen Tiffin. 
    The Empire Writes Back:Theory and practice in post-colonial literatures
    . 1989. London and New York: Routledge, 2002.(ビル ・アッシュクロフト・ガレス・グリフィス・ヘレン・ティフィン『ポストコロニアルの文学』木村 茂雄訳、青土社、1998年)。
  • Bigsby, C.W.E.  Modern American Drama: 1945-2000.  Cambridge: Cambridge University Press, 2000.
  • Eagleton, Terry. Literary Theory: An Introduction (Second Edition). Minneapolis: Univ of Minnesota Pr., 1996. (テリー・イーグルトン『文学とは何か―現代批評理論への招待』大橋洋一訳、岩波書店、1997年。)
  • Hutcheon, Linda. The Politics of Postmodernism. London and New York: Routledge, 2002.(リンダ・ハッチオン『ポストモダニズムの政治学』(叢書・ウニベルシタス) 川口喬一 訳、法政大学出版局、1991年。)
  • Trinh, T. Minh-ha. Women, Native, Other: Writing Postcoloniality and Feminism. Bloomington: Indianapolis University Press, 1989.(トリン・T・ミンハ 『女性・ネイティヴ・他者―ポストコロニアリズムとフェミニズム』竹村和子訳 岩波書店、1995年)。
  • 猿谷要『検証アメリカ500年の物語』平凡社、2004年。
  • ツヴェタン・トドロフ
     『他者の記号学―アメリカ大陸の征服』及川馥・大谷尚文・菊地良夫訳  法政大学出版局、1986年。
  • 花岡秀編、中良子・貴志雅之・辻本庸子・渡辺克昭  
     『神話のスパイラルーアメリカ文学と銃』英宝社、2007年。 
  • クロード・レヴィ=ストロース 
      『悲しき熱帯』(全2巻) 川田順造訳、中央公論新社、2001年。
  • 吉野源三郎
     『君たちはどう生きるか』 岩波文庫、1982年。