大阪大学外国語学部スウェーデン語専攻

大阪大学外国語学部スウェーデン語専攻

ようこそ阪大外国語学部スウェーデン語専攻へ!

スウェーデン語専攻は大阪外国語大学時代の1985年に創設され、スウェーデン語学、スウェーデン社会、スウェーデン史の授業科目を中心に開講している日本の国立大学唯一の専攻です。

スウェーデン語はデンマーク語やノルウェー語、アイスランド語などともにノルド語(フィンランド語は別系統の言語)と呼ばれていますが、これらの言語は系統的に英語、ドイツ語、オランダ語などとともにゲルマン語というグループを形成しています。スウェーデン語の構造はなかでも英語に近似しているので、英文法の得意な人は修得がはやいと言えるでしょう。スウェーデン語をしっかり会得すると隣国 のデンマーク語やノルウェー語も特に勉強しなくても、かなり理解できるという醍醐味があります。

スウェーデンの本質を知るためにはまずはスウェーデン語の知識が不可欠です。スウェーデン語専攻でスウェーデン語を習得し、皆さんのスウェーデンの関心分野を発展させませんか。

(スウェーデン語専攻は2007年12月にスウェーデン政府より日本のスウェーデン語教育に長年貢献したことで功労賞を授与されています。)

最新情報はこちら(近日中に開設されます)

学位授与式でスウェーデン大使館賞と専攻語賞が授与されました

3月22日に行われた学位授与式で本年度のスウェーデン大使館賞と専攻語賞が授与されました。大使館賞は向梨渚さん(写真左)に、専攻語賞は西澤清華さん(写真右)に贈られました。

平成30年度大学入試センター試験 地理歴史(地理B)第5問問4への見解

高橋美恵子、古谷大輔、當野能之の三名は、平成30年1月13日に実施されました大学入試センター試験地理歴史(地理B)の第5問問4につきまして、スウェーデン語に基づく研究教育を行っている大学に属する者の立場から、以下のような見解を公開します。

なおここに掲載する見解は大阪大学としての見解ではありません。あくまでも上記三名の見解です。またこの見解は、地理学ではなくスウェーデン語に基づく北欧研究を行う者からみた意見です。私たちがこの見解を公開する意図は、大学入試センターならびに本問に関わられた方々を批判するものではありません。私どももまたセンター試験の末端にあってこれに関わる者です。立場の違いはあれセンター試験に等しく関わる者として、センターならびに本問に関わられた方々の尽力に敬意を払うとともに、センター試験の社会的信頼を維持することに、私どもの研究で得られた知見を参考意見のひとつとして活かして頂きたいとの思いから、この見解を公開します。

(1)「どのような解答が求められていたのか?」

①この問題自体は新しい趣向を凝らした問題として作られたものと思います。とりわけ「AとBはノルウェー語とフィンランド語のいずれかを示している」という箇所については、判断の素材としてスウェーデン語の例があげられ、これをもとにスウェーデン語と似た言語であるノルウェー語がA、そうではないフィンランド語がBだと類推させる点で工夫が凝らされています。これは、スウェーデン語とノルウェー語がインド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属し、フィンランド語がそうではないという点で、語族という考え方を教える地理Bの内容を踏まえた的確な出題だと思います。

②タの「ムーミン」とチの「小さなバイキング ビッケ」の選択については、例えば以下のような解答方法が考えられます。「ムーミンがフィンランドを舞台にしたアニメーションだと知らなくても、バイキングはノルウェーに関わるものだから、消去法からタの「ムーミン」がフィンランドに関するものを選ぶ。」この場合「北欧は8〜12世紀に活躍したゲルマン語派のバイキングたちが活躍した地域」だという点を知っていれば答えられるものだと思います。また、「ムーミン」や「小さなバイキングビッケ」のことを知らなくても、ノルウェーが面する西岸海岸性気候やフィンランドの位置するバルト楯状地といった地理的特徴への理解をもとに、選択肢の挿絵に描かれている内容(森や船など)を組み合わながら解答を推測する方法など、答え方は複数あろうかと思います。解答方法はそれぞれですが、いずれにせよ、この設問は「「図5中のタとチはノルウェーとフィンランドを舞台にしたアニメーション…である」ことを前提としながらつくられています。

(2)「この設問のどこに問題があるのか?」

①この設問が抱える問題は、設問の文章中に「図5中のタとチはノルウェーとフィンランドを舞台にしたアニメーション…である」と記されている点です。スウェーデン語を母語とするスウェーデン語系フィンランド人の作家トーベ・ヤーンソンがスウェーデン語で書いた一連のムーミン関連の物語の舞台は、「ムーミン谷」とされています。スウェーデン語研究室に属する教員が現時点で原作(ただし現時点では全9作すべてのスウェーデン語原典を確認できてはおりません)やトーベ・ヤーンソン関連の評論・資料などから確認できている限りで、「ムーミン谷」は架空の場所であり、フィンランドが舞台だと明示されておりません。
 
 講談社から1994年に出版された『ムーミン谷への旅』には、日本人読者にむけた紹介文ならびに第6章の扉に「親愛なる日本の読者のみなさん、フィンランドにあるムーミン谷は、たぶんあなたが思っているほどあなたのところから遠くへだたってはいないのです。」とあります。しかし実際に本書を読んでみると、本書は日本人の著述家たちがムーミンならびにフィンランドを紹介した書であり(本書はムーミン谷の物語のモチーフとなっているフィンランドの自然や生活の様子を紹介した入門書として非常に良質なものですので、ムーミンに関心のあるすべての方々に一読をお薦めします)、くわえて同書の第1章の冒頭に引用されているヤーンソン自身の言葉には、「ムーミン谷は、スウェーデンの祖父が住むしあわせな谷と、フィンランドの島々とがいっしょになって……それも、すてきにまざりあって…できたものです。」ともあります。

 例えば、スウェーデン大使館のFacebookが「ムーミン谷のモデルになったのは、ヤーンソン一家が夏の日々を過ごしたスウェーデン群島にあるブリード島です」と記されているように、トーベ・ヤーンソンは、スウェーデン領のブリード島の印象をモデルのひとつとしながらムーミン谷を描きました。また、ムーミン公式サイトで「第8作『ムーミンパパ海へいく』の巻頭に添えられた、ムーミン一家が移住する灯台のある島を描いた挿絵に「フィンランド湾」とはっきりかかれている」とあります。物語のなかのムーミン谷には、ムーミントロールの冬眠の期間に数日間夜の闇に沈んでいるという設定があるので、これが「極夜」現象の起きる北極圏のいずこかではないかと推測もできますが、これらの事実を上記のヤーンソン自身の言葉を踏まえて考えてみるならば、ムーミン谷はフィンランド湾に位置する島々とスウェーデンの谷の双方を自在に混交させながら創造された舞台だと思われます。以上、私どもはムーミンがフィンランドを舞台としているものとは現時点で断定できません。

(この問題とは関わりませんが、ムーミン公式サイトにあるように、私どもも、トーベ・ヤーンソンの「ムーミン谷に住んでみたい。そう思った瞬間、あなたはもうムーミン谷の住人なのです。」の言葉に従い、「ムーミン谷はフィンランドを含むどこか実在の場所にあるものではなく、現実とは別のファンタジーの世界である」という見解を支持します。)

②くわえて、スウェーデン人作家のルーネル・ヨンソンがスウェーデン語で記した『小さなバイキング』の舞台もまた、「ノルウェーとスウェーデンの海岸にはかつてバイキングと呼ばれる海賊たちが活躍していた」とあり、ビッケと愉快な仲間たちが住んでいるフラーケ村がノルウェーだとは明示されていません。また原作中には、ビッケの属するフラーケ村の一族はスウェーデンの部族だとの記述もあります。スウェーデンのバイキングたちがノルウェーやフィンランドに移住することは史実として確認できることですが、原作中にはビッケの一族がスウェーデンからノルウェーへ移住したとの記述もなく、この点から見てもノルウェーが舞台だとは言えません。さらに『小さなバイキング』の物語自体はスカンディナヴィアに限定されず、世界中を旅するものとなっています。従って、この作品がノルウェーを舞台としているとも現時点では断定できません。

(3)「問題を成立させるには何を確認する必要があるか?」

①以上の原作に関わる情報は、直接この設問に関わるものではありません。この設問は、アニメーション作品の挿絵を見せて、舞台となっているフィンランドを答えさせるものとなっているからです。従って、もしこの設問を成立させるためには、『ムーミン』と『小さなバイキング ビッケ』の原作が日本で翻案、アニメーション化された時点で、アニメ作品のなかだけで「フィンランドのどこか」、「ノルウェーのどこか」という設定が加わっているということが前提となります。この設問を解答可能な問題として成立させるには、その根拠として『ムーミン』ならばアニメ作品(1969年版、72年版、90年版、『小さなバイキング ビッケ』ならば1972〜74年に制作された作品のどこかに、「フィンランドを舞台としている」かつ「ノルウェーを舞台としている」という設定があることを確認する必要があるものと考えます。

 その理由は以下の通りです。選択肢の図タとチは情景を戯画化したものですが、戯画化された絵の印象は、それを見る者によって様々です。従って、「タの「低平な土地に針葉樹の描かれたムーミンの挿絵」がフィンランドを描いたシーンからの引用である」こと、かつ「チの「ロングシップ(ヴァイキング船)の描かれた小さなバイキング ビッケの挿絵」がノルウェーを描いたシーンからの引用である」ことが、何らかの根拠をもって示されるのでなければ、誰の目からも見ても明らかな、そして平等な意味をもった選択肢になりえないと思います。それゆえ、これらの挿絵あるいはそれが引用されたアニメーション作品が、それぞれフィンランド、ノルウェーのものだと確認する必要があると考えます。もしそれらが見つからない場合、挿絵はフィンランドやノルウェーを描いたという根拠がなくなってしまいますので、解答不能となるのではないかと私どもは危惧を抱いています。

②私ども三名は、ひとえに大学入試センター試験の社会的信用を維持できるようにとの思いから、以上の(2)①と②の問題点を解消して第5問の問4の設問を成立させるために、(3)①に示した点について大学入試センターに確認を求めていきたいと思います。 (注:私ども三名の見解表明の意図が適切に伝わるように意見書の内容を検討しており、平成30年1月18日時点ではまだ意見書を出していません。)

(補足)「この問題がなぜ危険であるか?」

この設問の問題点について大学入試センターに説明を求めたい点は以上の通りです。以下につきましてはこの設問の内容そのものにかかわるものではありませんが、私どもが、スウェーデン語に基づく北欧の研究教育に携わる者の立場から、このような問題が受験生をはじめ日本社会に与えるかもしれない危険性について危惧を表明するものです。

①この設問に添えられた言語のサンプルは、上からスウェーデン語、ノルウェー語、フィンランド語です。設問自体は選択肢のタと選択肢のBとの関連を問うものではありませんでした。しかし、解答へ至る判断材料としてこれらの言語を載せ、選択肢タの「ムーミン」と選択肢Bのフィンランド語の組み合わせを解答として求めています。これは、もし『ムーミン』の原作がスウェーデン語で記されているという事実を知らない者には、短絡的に「『ムーミン』はフィンランド語で書かれているのではないか」という誤ったイメージを植え付けかねません。既にフィンランド大使館が「フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語のふたつである」とツイートしていますが、私どもは、短絡的なイメージを与えかねない設問のあり方は、フィンランド文化の多言語性、とりわけフィンランドにおいてはスウェーデン語のような少数言語の存在を軽視する考えを受験生や日本社会に与えてしまう可能性があるのではないかと危惧します。

②私どもは、日本アニメーション史において私たちの先人たちが作り上げた偉大な業績として『ムーミン』の一連の作品群と『小さなバイキング ビッケ』を評価しています。しかし、それはクリエイターたちの豊かな想像力によって翻案されたものであり、原作の内容や北欧文化の実像とは異なるところに位置させながら、評価を与えるべきものと思います。『ムーミン』のアニメーション作品群のうち、1969年版と72年版については、原作者のトーベ・ヤーンソンがあまりにも原作からかけ離れた内容だったために激怒し、放送を認めなかったという事実はよく知られています。また『小さなバイキング ビッケ』は、子供むけの世界冒険譚としてはよくできていましたが、海賊としての姿を強調するなど、バイキングの史実とかけ離れた姿を日本社会へ流布することになりました。

③私どもは、揚げ足取りをする目的で以上の見解を公開したのではありません。私どもは、日頃現地語で記述された資料など、客観的な事実に根拠を求めながら北欧の文化や社会の実像を探求し、その成果を教育しています。日本アニメがつくりあげたステレオタイプな北欧イメージを根拠とする今回の設問は、第一にこれから大学で学問を学ぶ受験生たちに対しては、トーベ・ヤーンソンやルーネル・ヨンソンがスウェーデン語で記した情報に依拠せずとも(つまり現地語を学ばなくても)北欧の実像に迫ることができるといったような安易な発想を植え付けてしまう点、第二に日本社会に対しては、現地語情報に基づかないことで、多言語・多文化社会のようなリアルな北欧の実像から乖離したイメージを再び広げてしまう危険性を孕んでいるのではないかとも危惧しています。

平成30年1月15日
平成30年1月18日一部修正

高橋美恵子
古谷大輔
當野能之